スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <1.始計篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

スピーチライターを名乗っている人、スピーチのトレーナーとして活躍している人、皆さんそれぞれ専門の分野で実績を挙げておられることは周知の事実。心から敬意を表したい。

しかしながら、中にはあまりにも自らの専門性にこだわるあまり、「戦略」と「戦術」の優先順位を取り違えている方もいるように見受けられる。

その方は著名なスピーチライターとして知られている方だが、今の時点ではあえて言及は避ける。

その代わりに、中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今後、随時残りの12篇も掲載してまいりたい。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

1.始計篇

 スピーチやプレゼンテーションは、あらゆる人間関係において、主導権を握ったり、リスクを回避するために極めて重要である。深い理解と実践方法の習得が不可欠である。

 そのためには、まず5つの要点を押さえた上で自らの能力を把握し、7つの比較軸を持って、ライバルとの関係性を判断する。

 5つの要点とは「主題」「時」「会場」「人格」「話し方と内容」である。

「主題」とは、聴衆と話す人との連帯感を生じさせるものである。これがあれば、聴衆は話を聞いた時に感動するだけではなく、その後の生き方にも影響をおよぼしていく。

「時」とは、流行、事件、イベント、季節などの条件をいう。

「会場」とは、聴衆の種類、式典の内容、聴衆の人数などの条件をいう。

「人格」とは、見識、幅広い知識、人間に対する洞察力、言動の一貫性、決断力、勇気など、話をする人の人間性の問題である。

「話し方と内容」とは、「読み上げるスピーチ」とそれを行う場合の原稿、「(語り掛ける)パブリックスピーチ」とそれを行う場合の台本など、具体的な方法のことである。

 この5つの要点は、リーダー的な立場にいる人は、温度差こそあれ心得ているものである。しかしこれを本当の意味で理解し、武器として使いこなす者だけが、勝利を掴むことができる。反対にそれぞれの理解度が浅かったり、関連性が理解できていないのであれば、勝利を収めることはできない。

 さらに、次の7つの比較軸に照らして、同じ立場や目的で、ライバルに勝ち、より多くの人の支持を得るために、方針を決定する。

一、ライバルに比べて、リーダーとして結果を残しているのか。

二、ライバルに比べて、優秀なパートナーがいるのか。

三、ライバルに比べて、天の時と地の利を得ているのか。

四、ライバルに比べて、実績を上げるためのノウハウを確立し、かつ実行できているのか。

五、ライバルに比べて、自分のしていることが魅力的であるのか、発信力に優っているのか。

六、ライバルに比べて、自分自身や協力してくれる人の実務能力は高いのか。

七、ライバルに比べて、勝負感を持って物事に取り組み、自らに高いハードルを課しているのか。

 この7つの比較軸を比較検討した上で、スピーチの成否の見通しをつけなければならない。

 スピーチを行う人が、先に述べた5つの要点と7つの比較軸を用いるならば、必ずスピーチに成功するであろう。反対に用いないのであれば、スピーチに失敗することになるであろう。5つの要点と7つの比較軸という原則を理解した後は、聴衆の状況に基づいて効果的なフレーズを使うことが求められる。

 スピーチとは「新鮮な切り口の言葉」の異名である。

 そのためにあえて美辞麗句ではなく、地に足のついた言葉を用い、オーバーアクションな言葉を用いるのではなく、一歩引いた表現も駆使し、手垢にまみれた常套句を避けながら、ウイットというスパイスを効かせたフレーズを用い、聴衆が過度に情緒的な言葉を求めているときは肩透かしを食らわせ、漫然と話を聞いている人々には、キレのあるフレーズを用いて目を覚まさせ、鵜の目鷹の目でこちらの揚げ足取りを伺っている聞き手には、ガードを固めて失言のリスクをつぶし、こちらの批判が逆にブーメランとして返ってくるリスクがある時には、あえて言及を避け、ライバルが感情的になっている時には、挑発して火に油を注ぎ、逆に謙虚な姿勢を示しているときには、巧みにお世辞を使って慢心させ、安心している時には痛いところを突いて疲労感を煽り、ライバル同士が団結している時には、言葉の石つぶてを投げて、分裂させる。

 スピーチによって、「共感を得る」ことが目的の場合もあれば、「攻める」ことが必要な場合もあるだろうが、いずれにあっても、シンプルな中に新鮮な印象を与えることが必要になる。これがスピーチライターのいうところの効果的なフレーズであって、取材を行う前には伝えることのできないものである。

 スピーチを行う前に成功する見通しがつくのは、5つの要点と7つの比較軸に基づいて考えた結果、勝ち目が多いということである。逆に失敗する予測が成り立つのは、5つの要点と7つの比較軸に基づいて、成功する可能性が少ないからである。

 条件の違いにより、スピーチの成否が決まるというのは当然のことである。

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