スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <5.兵勢篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は五編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

5.兵勢篇

 スピーチを行うに当たって、大勢の聴衆を相手にしていても、まるで1人の相手と対話しているように納得感を持って受け止めてもらえるのは、スピーチの組み立てがうまくいっているからである。

 大勢の聴衆とやりとりしても、仲の良い数人を相手するように話がはずむのは、効果的なフレーズが功を奏しているからである。

 大勢の聴衆がユーモアやアドリブにうまく反応してくれ、場の雰囲気を自在にコントロールさせることができるのは、「聞き手に応じて表現を変える」応用と、「組み立てを考え、失言を回避する」基本との使い分けがうまくいっているからである。

 ライバルを想定したスピーチを行った場合に、まるで石を卵にぶつけるように、たやすく論破することができるのは、筋の通った話で相手の弱点を突くことができるからである。

 したがって、うまくアドリブを用いることができる話し手は、その変化は自然現象のように極まりがなく、長江や黄河の水のように尽きることがない。

 終わっては、また繰り返して始まるというのは、春夏秋冬がそれにあたり、暗くなったと思ったら、また明るくなるというのは太陽や月がそれに当たる。

 音階はドレミファソラシドの8つに過ぎないが、それらのまじりあった変化は無数である。色の現色は3つとされているが、その組み合わせは無数であり、味の種類は大きくいうと、酸っぱさ、辛さ、塩辛さ、甘さ、そして苦みの5つに過ぎないが、それらの混じりあった変化は無数である。

 今いった事柄と同じように、スピーチの成り立ちは、「基本」と「その場の判断」の2つに過ぎないが、それらの混じりあった変化は数限りなく、極め尽くせるものではない。

 過去の数多くのスピーチにおいても、「基本」に忠実でお手本となりうるような話もあれば、「その場の判断」から生まれた、強烈なインパクトを与える話も存在する。それはあたかも丸い輪には終わりの点が無いようなものであり、「自分はスピーチの真髄を極めた」などとうそぶいている人は、詐欺師と呼ばれても仕方がない。

 せき止められていた水が、岩をも押し流すほど激しい流れになるのが、勢いであり、ワシやタカが獲物を打ち砕くほど強烈な一撃を与えるのが、フレーズの力である。

 巧みにスピーチを行う人は、勢いにのった上で強烈なフレーズを発して聴衆の心を掴む。それはあたかも、勢いよく弓を引いた後に、的の中心をめがけて矢を射るようなものである。

 混乱したスピーチは、整理された話から生まれ。臆病な語り口は確信を持った話から生まれる。そして軟弱な話し方は力強い話し方から生まれる。

 今いったことは、決して違う人の話をいうのではなく、動揺してしまえば1人の人が行ってしまいがちなものである。

 まとまりの無い話をしてしまうのか、すっきりと頭の中に入る話ができるのかは、スピーチの組み立ての問題である。ビクビクしながら話すのか、確信を持った話ができるのかは、勢いに乗れるかどうかという問題である。弱々しい話をするのか、力強い話をすることができるのかは、今述べた組み立てと話す人の確信が総合力として力を発揮するかという問題である。

 巧みに心を掴む話し手は、わかりやすい題材を示すと聴衆が話に乗ってくるし、お得感の漂う話をすると、聴衆は「もっと聞きたい」という反応を示してくる。つまり、「メリットがありますよ」という点を強調して誘い込み、サプライズな効果をねらって話を進めていくのである。

 そこで、巧みにスピーチを行う人は勢いに乗ることを考え、自分自身のカリスマ性や天才的なスピーチライターの能力に寄りかかろうとはしない。だからうまく、自らの身の丈にあった話し方を選択したり、「守り」と「攻め」のバランスをよくわきまえたスピーチライターを選び出して、勢いにのったスピーチを行うことができるのである。

 うまく勢いに乗るスピーチはあたかも、木や石を転がすようなものである。木や石は平らなところにおいておけば静かであるが、傾いたところでは動き出す。ただし、四角い木や石であればじっとしているであろうが、丸ければすぐに走り出すであろう。

 今述べたようにノリに乗って、とどまるところを知らないスピーチの勢いは、高い山の上から丸い石を転がしたかのようである。それこそが、勢いにのったスピーチというものである。

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