スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <7.軍争篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は7編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

7.軍争篇

 スピーチやプレゼンの段取りは、スピーチライターなどの専門家がクライアントの依頼を受けて体制を組み、ライバルや聴衆の情報収集や分析を行いながら進めていくわけであるが、機先を制することほど難しいものはない。

 つまりそれは、曲がりくねった長い道を真っすぐな近道にし、害を利益に変えるようなものであり、相手の裏をかきながら、仕上げていくことになるが、反面それは危険を伴うことでもある。

 それはなぜか、陸軍の編成になぞらえてつぶさに見ていけば明らかになってくる。

 火力は最も大きいが、一番足の遅い「砲兵」は、スピーチの成否に最も大きく影響するが、短い期間ではどうすることもできない「①見識と実績」といえよう。

 小銃やバズーカ砲や手りゅう弾などを用い、一番緻密な作戦行動をとることができる「歩兵」は、「②話す内容の作成」と言えるだろう。

 さらに一番足が速く、運用の仕方によっては絶大な戦果を挙げることができる「騎兵」であるが、防御力はないに等しい。これはスピーチにおいては「③話し方の練習」である。

「①見識と実績(砲兵)」の薄い人が、しゃかりきになって「②話す内容の作成(歩兵)」や「③話し方の練習(騎兵)」に励むことは、いわば砲兵の援護なしで歩兵の肉弾攻撃を繰り返して貴重な戦力を消耗し、挙句の果てにはトンチンカンなタイミングで騎兵を突撃させて、全滅させる無能な司令官のようなものである。

 さらに聴衆の考えがわからないのであれば、事前の段取りを行うことはできず、聞き手のニーズや個別の状況がわからないのであれば、話の方向性を決めることができず、細かい事柄に通じた相談役がいなければ、きめ細やかな対応をすることはできない。

 そこで、スピーチやプレゼンテーションは、ライバルや聴衆の予想を超えた内容に仕上げることを旨として、キレのあるフレーズや全体の組み立てを巧みに行いながら、変化をつけていくものである。

「1.始計篇」で述べた言葉を再度確認のために引用すれば、<<スピーチとは「新鮮な切り口の言葉」>>の異名である。

 世の中には、あまりにも使われ過ぎて、聞いた人を思考停止に陥らせるフレーズや文章が存在する。

 例えば武田信玄が軍旗に用いた「疾きことは風の如く~」や、祝い事の席で述べられる「本日はお日柄もよく」などであるが、手垢にまみれたフレーズを安易に引用することは、自らの「地頭の悪さ」を証明することにしかならない。

 ただし、自然現象のように「動」と「静」を自在に変化させながら、ライバルから主導権を奪い、聴衆に新鮮な感動を与えるというイメージ作りとして、武田軍団の戦い方を参考にすることは悪いことではない。

 ともあれ、一見遠回りのように見える道を、近道に転じるかのような行動をとれるか否かが、スピーチやプレゼンを成功させるカギになる。

 古い戦争のやり方を書いた本にはこのようにある。

「口でいったのでは聞こえないので太鼓や鐘を鳴らし、指で指しても見えないので旗やのぼりをひるがえらせる」

 これを現代のスピーチやプレゼンに当てはめれば、大きな会場ではマイクを使い、わかりやすくするためにスライドで図や写真を見せながら話をする、ということになる。

 今いった機材や資料を上手に使って話をすることは、聴衆の心をつかみ、ひいてはライバルに差をつけることになる。

 話をする時間帯によっても、聴衆の聞く姿勢は違ってくる。

 例えば朝から夕方までの長時間行われるセミナーで話をする場合、一番大事なポイントの話は一番気力がみなぎっている朝方に行い、「多少流してもいい話」は昼食後の少し眠たくなる時間帯、セミナーが終了する一時間前など「いい加減話を聞くのが疲れた」という時間帯には質疑応答を行うなどの変化をつけるのがよい場合もある。

 さらにいえば、国会の審議などでもみられる光景であるが、ヤジを連発する野党議員や国会前でエキセントリックに騒いでいる群衆のペースに乗らず、冷静かつ理路整然と答弁に立った議員の話には与野党問わずいつしか耳を傾け、納得感をもって受け止められる場合もある。

 さらには、もし可能であればの話であるが、スピーチやプレゼンを行う会場は遠隔地よりは近く、理想をいえば自分の会社の施設などで行うのが望ましい。準備万端整えて来場者を待ち、トイレに行きたくなったのなら気兼ねなく用を足しに行き、小腹が空いたのなら菓子パンでもかじる方が、アウェーな雰囲気が漂う会場で話をするよりもいいコンディションで本番を迎えることができるであろう。

 さらには、ライバルが逆の立場でスピーチやプレゼンテーションの準備をしている場合には、あえて攻撃を仕掛けるのではなく、出方を見守ることが必要な場合もある。

 今いった事がライバルの変化を見極めた上で、対抗策をとり打ち勝つというものである。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <6.虚実篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は六編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

6.虚実篇

 およそスピーチを行うにあたって、早い段階で形を作り上げて聴衆の反応をリサーチしたり、ライバルの出方を伺う人は有利であるが、本番ギリギリになって準備を行う人は骨が折れる。だから巧みにスピーチを行う人は、聴衆を思いのままにすることができ、相手に振り回されることがない。

 聴衆に関心を持ってもらうことが可能になるのは、利益になることを示して話をするからである。聴衆に「自分の考え方ではだめだ」と思いを改めさせることができるのは、害があることを示して心にブレーキをかけるからである。だから、聴衆が何も考えていない時には、いい意味で疑問を生じさせることができ、満ち足りた気分でいるときは、物足りなさを生じさせることができ、静かで落ち着いた様子の時は、行動を起こすようにしむけることができるのである。

 聴衆が必ず反応を示すような言葉を繰り出し、聴衆が新鮮な感動を覚えるようなフレーズを生み出し、時に長いスピーチを行ったとしても自他ともに疲れさせないというのは、想定されるライバルの思いもよらない発想で話を展開するからである。

 聞く人に強いインパクトを与えるパブリック(語り掛ける)スピーチを行って、選挙に当選したり、テレビの商品紹介で多くの売り上げを上げるというのは、聞く人にサプライズと共感を与える話だからであり、事前に十分な準備を行い、着実に読み上げるスピーチを行って、「失言」や「自己陶酔」そして「矛盾」という失敗を回避することができるのは、ライバルに隙を与えないからである。

 パブリック(語り掛ける)スピーチを巧みに行う人には、ライバルはどうやって対抗すればいいのかわからず、着実に読み上げるスピーチを成功させる人に対しては、鵜の目鷹の目で揚げ足取りを狙っている人は、攻め所を見失うことになる。

 攻めるスタンスのスピーチを行うことによって、ライバルの立場にいる人間が有効な対抗策を打ち出すことができないのは、相手の隙を突いた話を行うからである。

 リスク回避のスタンスでそれまでに述べていた話題に触れなくなった人や、初めからきわどい題材に触れない相手に対して攻めようがないのは、スピードに対応できないからである。

 逆にこちらの立場で考えてみよう。ライバルを議論の土俵に引きずり込み、論破したいと願うときには、相手がたとえ自分の実績や仲間を囲い込み、嵐の過ぎ去るのを待とうとしても、どうしても出るところに出ざるを得なくなる。

 なぜそうなるのか、それはライバルがそのまま放置すれば、自らの立場が危うくなる問題について指摘をするからである。

 さらに逆の立場で考えてみれば、こちらが議論しなくないと思うときには、仰々しく構えなくても、自分の立ち位置をはっきりさせるだけでも、ライバルはこちらと議論することができない。そうなるのはライバルが指摘したいと思う問題点をはぐらかすからである。

 そこでライバルにはっきりした態勢を取らせて、こちらは手のうちを明かさず、「どうぞ先にお話ください」というのであれば、こちらは相手の出方に応じた言葉の集中砲火を浴びせることができるが、ライバルは疑心暗鬼に陥り何も言えなくなる。

 こちらは論点を絞り込むことに成功し、ライバルは失敗したとしたなら、それはあたかも10倍の数で相手を攻め上げることにも通じるといえよう。

「多勢に無勢」という言葉があるが、論点の絞り込みはまさしく戦争における「兵力の集中」になぞらえることができる。

 さらに言えば、ライバルがこちらの主張したいことを事前に察知できていないとすれば、たくさんの準備をしなければならず、貴重な労力を分散しなければならない。

 例えば、前後左右すべての方面に精強な部隊を配置できれば、鉄壁の防御ができるだろうが、現実にはそうはいかない。いろんな論点の話を手薄な形で準備することになり、各個撃破で論破されるのが落ちである。

 今述べた形になってしまうのは、ライバルを相手に備えをする立場だからである。反対に論点を絞り込み、集中砲火をあびせることができるのは、ライバルをこちらのペースに引き込み、備えさせる立場だからである。

 そこで、ここ一番の場所やタイミングが分かったなら、たとえ労力を要したとしてもスピーチで雄弁を振るい、あるいはライバルに討論を挑んで論破すべきである。

 勝負所や「時」を見失ってしまえば、いくつかある論点の重要なポイントが散発的な主張にとどまってしまい、数多くの聴衆を納得させ、ライバルに止めを刺す機会を失ってしまうであろう。

 ともかく、ライバルの裏をかき、主導権を奪う形でスピーチやプレゼンテーションの準備をおこなうことができれば、たとえ相手が規模の大きな会社や著名な人物であっても勝利を得ることは可能である。

 そこで、スピーチやプレゼンを行う前にライバルの嘘と真実を知るためには、公開されている情報から利害や損得勘定を計算したり、電話やメールで連絡したり、ソーシャルメディア上で相手にあてつけたメッセージを発信して反応を確かめたり、踏み込んだ調査を行って弱点と強みを把握したり、あるいはアポなしでの訪問や、挑発を行って相手の対応を見極めたりして、有利なところや手薄な所とを知るのである。

 そこで、スピーチやプレゼンテーションの準備を行う体制として、理想的な形といえるのは無形になることである。無形であればたとえスパイが潜り込んだとしても、意図を察知されることはなく、知恵の働く者であってもこちらの考えを洞察することができない。

 ライバルの態勢に応じたスピーチやプレゼンで相手を打ち負かすやり方は、一般の人たちにはわからないであろう、その人たちは我々がとった体制がスピーチやプレゼンを成功させたことを理解したとしても、実際の運用方法までは理解できないのではないだろうか。

 したがって、一度成功したスピーチやプレゼンの方法があれば、同じやり方を繰り返そうとするのが人の常であるがこれではいけない。スピーチやプレゼンのやり方は、ライバルの態勢に応じて、無限に変化するものであることを忘れてはならないであろう。

 たとえて言えば、スピーチやプレゼンのありかたは、水の流れのようなものでなければならない。水は高いところから低いところに流れていくが、スピーチやプレゼンもライバルの手薄な所を突くべきであろう。

 水には決まった形がないように、スピーチやプレゼンにも絶対に変わらない「勝ちパターン」というものはあり得ない。ライバルや聴衆の状況に合わせて、変化させながら絶妙な話を行ってこそ「成功した」といえるだろう。

 それはあたかも、季節や一日の天候が常に変化しながらめぐっていくのと同じである。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <5.兵勢篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は五編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

5.兵勢篇

 スピーチを行うに当たって、大勢の聴衆を相手にしていても、まるで1人の相手と対話しているように納得感を持って受け止めてもらえるのは、スピーチの組み立てがうまくいっているからである。

 大勢の聴衆とやりとりしても、仲の良い数人を相手するように話がはずむのは、効果的なフレーズが功を奏しているからである。

 大勢の聴衆がユーモアやアドリブにうまく反応してくれ、場の雰囲気を自在にコントロールさせることができるのは、「聞き手に応じて表現を変える」応用と、「組み立てを考え、失言を回避する」基本との使い分けがうまくいっているからである。

 ライバルを想定したスピーチを行った場合に、まるで石を卵にぶつけるように、たやすく論破することができるのは、筋の通った話で相手の弱点を突くことができるからである。

 したがって、うまくアドリブを用いることができる話し手は、その変化は自然現象のように極まりがなく、長江や黄河の水のように尽きることがない。

 終わっては、また繰り返して始まるというのは、春夏秋冬がそれにあたり、暗くなったと思ったら、また明るくなるというのは太陽や月がそれに当たる。

 音階はドレミファソラシドの8つに過ぎないが、それらのまじりあった変化は無数である。色の現色は3つとされているが、その組み合わせは無数であり、味の種類は大きくいうと、酸っぱさ、辛さ、塩辛さ、甘さ、そして苦みの5つに過ぎないが、それらの混じりあった変化は無数である。

 今いった事柄と同じように、スピーチの成り立ちは、「基本」と「その場の判断」の2つに過ぎないが、それらの混じりあった変化は数限りなく、極め尽くせるものではない。

 過去の数多くのスピーチにおいても、「基本」に忠実でお手本となりうるような話もあれば、「その場の判断」から生まれた、強烈なインパクトを与える話も存在する。それはあたかも丸い輪には終わりの点が無いようなものであり、「自分はスピーチの真髄を極めた」などとうそぶいている人は、詐欺師と呼ばれても仕方がない。

 せき止められていた水が、岩をも押し流すほど激しい流れになるのが、勢いであり、ワシやタカが獲物を打ち砕くほど強烈な一撃を与えるのが、フレーズの力である。

 巧みにスピーチを行う人は、勢いにのった上で強烈なフレーズを発して聴衆の心を掴む。それはあたかも、勢いよく弓を引いた後に、的の中心をめがけて矢を射るようなものである。

 混乱したスピーチは、整理された話から生まれ。臆病な語り口は確信を持った話から生まれる。そして軟弱な話し方は力強い話し方から生まれる。

 今いったことは、決して違う人の話をいうのではなく、動揺してしまえば1人の人が行ってしまいがちなものである。

 まとまりの無い話をしてしまうのか、すっきりと頭の中に入る話ができるのかは、スピーチの組み立ての問題である。ビクビクしながら話すのか、確信を持った話ができるのかは、勢いに乗れるかどうかという問題である。弱々しい話をするのか、力強い話をすることができるのかは、今述べた組み立てと話す人の確信が総合力として力を発揮するかという問題である。

 巧みに心を掴む話し手は、わかりやすい題材を示すと聴衆が話に乗ってくるし、お得感の漂う話をすると、聴衆は「もっと聞きたい」という反応を示してくる。つまり、「メリットがありますよ」という点を強調して誘い込み、サプライズな効果をねらって話を進めていくのである。

 そこで、巧みにスピーチを行う人は勢いに乗ることを考え、自分自身のカリスマ性や天才的なスピーチライターの能力に寄りかかろうとはしない。だからうまく、自らの身の丈にあった話し方を選択したり、「守り」と「攻め」のバランスをよくわきまえたスピーチライターを選び出して、勢いにのったスピーチを行うことができるのである。

 うまく勢いに乗るスピーチはあたかも、木や石を転がすようなものである。木や石は平らなところにおいておけば静かであるが、傾いたところでは動き出す。ただし、四角い木や石であればじっとしているであろうが、丸ければすぐに走り出すであろう。

 今述べたようにノリに乗って、とどまるところを知らないスピーチの勢いは、高い山の上から丸い石を転がしたかのようである。それこそが、勢いにのったスピーチというものである。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <4.軍形篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は四編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

4.軍形篇

 過去にスピーチを成功させた人の多くは、まずリスクを想定した上で失言する可能性を減らし、効果的なフレーズで聴衆の心を掴むことに思いを巡らせた。このことで明らかなように、失敗を回避できるかどうかはこちら側の問題であるが、ライバルに勝利し、聴衆の心をわしづかみにできるかどうかは、外的な要因がどうであるかにかかっている。

 したがって、どんなにスピーチが上手な人でも、問題発言や自己矛盾や場の空気の読み違いを回避することはできるが、百発百中で聴衆の心を掴み、行動を起こさせることはできない。

 すなわち、「成功の可能性を高めることはできるが、必ず成功するとは限らない」ということである。

 したがって、スピーチの上手な人は「守るスタンス」で話をするときは、手のうちを明かさずライバルにつけいる隙を与えず、「攻め時」と見れば効果的なフレーズを連呼する形で攻め立て、ライバルに反論の機会を与えない。かくてイメージダウンという失敗を犯すことなく、自らの立場を有利にすることができるのである。

 やたらとオーバーアクションな物言いで、世間の注目を集めるようなスピーチは最善なスピーチではない。また、表面的な情緒に絡め取られ、聞いた人を思考停止に陥らせるような話も最善のスピーチとはいえない。

 例えば、聞いた人が「なるほど」というフレーズを一つ発したとしても、誰も文豪とはいわない。一般的に使われていない専門的な用語を使ったとしても、誰も「天才ですね」とはいわない。変わったエピソードを紹介したとしても、誰も「世界一の物知りですね」とはいわない。今いったことは普通の人であっても、インターネットで少し検索すれば、題材はいくらでも見つけられるからである。

 それと同じように、過去にスピーチを成功させた人は、自分の見識や行動の身の丈に合った形で無理のない話をしている。だから、仕事の成果に比べてスピーチそのものは目立たないことが多く、その雄弁さがもてはやされる事は少ない。

 したがって、今述べた人は必ずスピーチを成功させる。成功とは先に述べたように、失言のリスクを最低限に抑え、身の丈に合った形でリターンを最大化させることであり、万に一つも失敗することがない。なぜなら、既に負けているライバルやライバルになりうる人を敵にして戦っているからである。つまり、スピーチが上手な人は「負けない体制」を築き、ライバルの隙はのがさずとらえるのである。

 今いったように、普段から自らの見識や決断力を磨く努力をし、成功する体制を整えてからスピーチを行う者が勝利を納める。

 逆に本番の直前になってから慌てて「世界を変える」「聴く人を感動させる」「ジョブズのプレゼンによれば」などといって、いいとこ取りをもくろむ人は、「自己満足」「ただのパフォーマンス」「あの人はいっていることと、やっていることが違う」などと批判された、過去の政治家と同じ運命を辿ることになる。

 それゆえに、スピーチを単なるパフォーマンスではなく、長期的な視点で「成功」を勝ち取るための重要な手段の一つと考えるリーダーは、まず自らや関係する人たちの仕事のあり方を見直し、成功体験や貴重な失敗の体験を、再現可能なノウハウとして確立した上で実行し、勝利する体制を築いていくのである。

 スピーチの成否は、次の要素によって決まる。

一.伝えようとしている課題が、どれだけ幅広い人から支持される潜在力を持っているのか

二.自分自身がどれだけ、幅広い知識と見識の深さを持っているのか

三.自分の支持者が現時点でどれだけいるのか

四.自分自身の人前で話す能力がどれだけあるのか

五.前段の四つに照らして、スピーチを成功させる見通しが立つのか

 ライバルやライバルになりうる人に比べて、こちらの戦力が500倍以上も優っていて初めて必ず勝つといえる。逆に戦力が逆の場合には、必ず敗れる。

 スピーチを成功させて勝利を収めるものは、満々とたたえた水を谷底に切って落とすように、一気にライバルを圧倒する。スピーチを成功させる体制を組むとは、このことをいうのである。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <3.謀攻篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は三編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

3.謀攻篇

 およそスピーチの原則としては、世界を変えるというよりも、一人一人と対話するという思いで語り掛けるのが上策で、オーバーアクションな物言いでカリスマ的な存在感を示すのはそれに劣る。

 国を変えるというよりも、一人一人と対話するという思いで語り掛けるのが上策で、オーバーアクションな物言いでカリスマ的な存在感を示すのはそれに劣る。

 一つの地方や同じ業種の人たち、同じ団体に属している人を変えるというよりも、一人一人と対話するという思いで語り掛けるのが上策で、オーバーアクションな物言いでカリスマ的な存在感を示すのはそれに劣る。

 一つの町や限られたコミュニティに属している人を変えるというよりも、一人一人と対話するという思いで語り掛けるのが上策で、オーバーアクションな物言いでカリスマ的な存在感を示すのはそれに劣る。

 一方的な話で、「目の前の一人」を変えてやろうと意気込むよりも、まずはよく話を聞き、信頼関係のパイプを広げてから、誠意をもって語りかけるのが上策で、オーバーアクションな物言いでカリスマ的な存在感を示すのはそれに劣る。

 ゆえにスピーチを100回行って、そのすべてが「劇場型」の派手な話であることは素晴らしいことではない。失言と受け取られるリスクを最低限に抑え、その話をすることによって得られるリターンを、身の丈に合った形で一番高いところに持っていくのが、素晴らしいスピーチといえる。

 すなわち、素晴らしいスピーチはリスク回避を第一に置いた話であり、その次は聴衆が自分に対しては共感、ライバルやライバルになりうる人に疑問を持つような話をすることであり、その次は「あの人のことを言ってるんだな」と名前が浮かぶような話をすることであり、一番まずいのは名指しで人を非難することである。

 特定の人を非難するのは、他に方法がない場合にやむを得ずを行うものである。その場合もしっかりと理論武装した上で、起こりうる状況を予測し、どのような形で幕引きをするのかを準備した上で行わなければならない。

 その場の感情にまかせて、やみくもに人を非難することは、信頼を大いに失墜させ、しかもライバルは痛くも痒くもないということになる。これが、安易に人を非難することの害である。

 それゆえ、スピーチの上手な人はライバルより有利な立場に立ったとしても、あてつけや名指しや、ライバルの背後にいる人たちと大立ち回りをしたり、論争を長引かせたりはしない。必ず誰の名誉も失わない形で世間の信頼を得るのであり、そのため自分自身や仲間が疲弊しない形で、完全な利益が得られるのである。これがスピーチで自らの立場を有利な方向に持っていく原則である。

 そこでスピーチの原則としては、自分がライバルやライバルになりうる人よりも10倍有利と判断するのであれば、自分のフィールドで聴衆の興味を引く話を行い、5倍有利であれば、直接もしくは間接的なアプローチでウィークポイントを指摘する方向の話を行い、倍有利であれば、疑問を生じさせるような話を行い、同じであればよりきめの細かいアプローチで聴衆の関心を引くような話を行い、少なければライバルとぶつからないような題材の話を行い、勝ち目がないと判断するのであれば、スピーチ自体を行わない。カラ元気やハッタリだけのスピーチで、自らの立場を有利に持っていくのは無理である。

 スピーチライターはリーダーの参謀役である。

 参謀役がリーダーと緊密であれば、リーダー自身や率いる組織は必ず強くなるであろう。しかし双方の信頼関係が薄く、秘書などを通じた間接的なやりとりしかできないのであれば、リーダーの見識や経験に基づいたスピーチ原稿の作成が難しくなり、聴く人に違和感を感じさせる内容の話になる。ひいては苦しい立場に追い込まれてしまうであろう。

 そこでリーダーが、スピーチについて心配しなければならないことが3つある。第1には、十分に原稿のチェックをしないまま安易に完成の判断を下したり、反対に完成している原稿に「これも入れたい。あれも入れたい」と思いつきで追加の指示を出すことである。このような対応を「決断力のなさ」というのである。

 第2には、効果的な文章の組み立ての知識がないのに、ちゃぶ台をひっくり返すような指示を出すことである。

 第3には断片的なフレーズや美しい言い回しに酔ってしまい、全体のバランスを考えて提案する、スピーチライターの意見を無視することである。

 スピーチ原稿の良し悪しは、トータルで見なければならず、リーダーの思い込みや優柔不断な対応は、ライバルに隙を見せることに繋がる。このようなことを「自滅する」というのである。

 ゆえに、スピーチを成功させるために必要な事柄がある。

 第1には、踏み込んだ話をするときと、失言を回避するために地雷をすり抜ける話をする時がわかっているリーダーは成功する。

 第2にはスケールの大きい話と、きめの細かい話の効果的な使い方がわかっているリーダーは成功する。

 第3にはスピーチライター、スタッフや仲間と団結しているリーダーが成功する。

 第4には「自分は大丈夫だ」と油断して悠長に構えている相手をターゲットにした話をするリーダーは成功する。

 第5にはスピーチライターが優秀で、リーダーがそれに干渉しなければ成功する。

 だから、「ライバルやライバルになりうる人の事情と、自らの状況を理解している人は、100回スピーチを行っても危険はなく、相手のことを知らず、自分のことしか知らない人は成功したり失敗したりし、相手のことも自分のことも分かっていない人は、スピーチをするごとに失敗する」ということになる。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <2.作戦篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今回は二編目である。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

2.作戦篇

 スピーチも内容や種類によっては、準備に時間がかかり、経費も多くかかる場合がある。人前で話をする人の多くは、経営者や組織のリーダーであり、複数の人をマネージメントしなければならない。したがって、経営者自身の人件費も決して馬鹿にならず、スピーチの準備に必要以上の時間をかけることは、避けなければならないであろう。

 仕事の優先順位を取り違え、貴重な時間と経費を浪費してしまえば、部下や仲間の士気が下がり、ライバルに隙を与えることになる。そのような状況になってしまえば、優秀な側近がいたとしても、対応するのが難しくなるだろう。

 完璧主義に陥って、グズグズ準備をしたスピーチが成功することはない。

 例え完璧でなくても、とりあえず仕上げてみて問題点をリサーチし、修正するサイクルを早くしたほうが、はるかにうまくいくであろう。

 掛かるコストと時間というリスクと、スピーチを成功させることによって得られるリターンをはかりにかけて考えることのできないリーダーが、成功を掴み取ることはできないのではないか。

 スピーチの準備を行うことの上手な人は、「自分が伝えたいこと」は明確に持っていても、何もかも自分で考えようなどとは思わず、文章の表現力に長けた人の力をうまく使っている。

 それは、鳥が上空から下界の様子を眺めるような形で善し悪しを判断し、最終的には自分の見識に基づいて原稿の採用を決断するということである。したがって、「考える時間がない」ということにはならないわけである。

 リーダーがスピーチの内容を考えるのに行き詰まってしまうのは、自分ですべて考えなければならないと思い込んでいるからであり、貴重な時間を決断以外の時間に割いてしまえば、周りにも良くない影響を与えてしまう。

 すぐれたリーダーは、最良の決断をするために時間を確保することが、結果的にライバルの力を奪うことをよく知っている。1時間自らの時間を確保することは、部下にとって20時間を確保することに相当し、一枚のすぐれた原稿を仕上げることは、20枚のお札に相当するのである。

 そこで、完成度の高いスピーチ原稿を仕上げることは、リーダーの仕事を勢いづかせることになるのだが、時間を確保することは利益に直結することになる。したがって、すぐれた文章を書く人間に対しては、その働きを十分に評価し、報酬を与えた上で、さらに自らの考えを深いレベルまで理解してもらい重用する。これがライバルに勝って、より強くなるということである。

 したがって、スピーチを成功させることは第一であるが、準備にグズグズ時間をかけるのは良くない。スピーチの成否をわきまえたリーダーは、多くの人の人生に影響をおよぼし、組織の盛衰を決する存在である。

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スピーチを成功させるための意訳版『孫子の兵法』 <1.始計篇>

スピーチライターの近藤圭太です。

スピーチライターを名乗っている人、スピーチのトレーナーとして活躍している人、皆さんそれぞれ専門の分野で実績を挙げておられることは周知の事実。心から敬意を表したい。

しかしながら、中にはあまりにも自らの専門性にこだわるあまり、「戦略」と「戦術」の優先順位を取り違えている方もいるように見受けられる。

その方は著名なスピーチライターとして知られている方だが、今の時点ではあえて言及は避ける。

その代わりに、中国の兵法書『孫子』をスピーチに携わるすべての方に参考にしてもらえるような形で意訳をしてみた。今後、随時残りの12篇も掲載してまいりたい。

賛否両論を含めてご意見をいただければ幸いである。

『孫子』に学ぶスピーチ成功法

1.始計篇

 スピーチやプレゼンテーションは、あらゆる人間関係において、主導権を握ったり、リスクを回避するために極めて重要である。深い理解と実践方法の習得が不可欠である。

 そのためには、まず5つの要点を押さえた上で自らの能力を把握し、7つの比較軸を持って、ライバルとの関係性を判断する。

 5つの要点とは「主題」「時」「会場」「人格」「話し方と内容」である。

「主題」とは、聴衆と話す人との連帯感を生じさせるものである。これがあれば、聴衆は話を聞いた時に感動するだけではなく、その後の生き方にも影響をおよぼしていく。

「時」とは、流行、事件、イベント、季節などの条件をいう。

「会場」とは、聴衆の種類、式典の内容、聴衆の人数などの条件をいう。

「人格」とは、見識、幅広い知識、人間に対する洞察力、言動の一貫性、決断力、勇気など、話をする人の人間性の問題である。

「話し方と内容」とは、「読み上げるスピーチ」とそれを行う場合の原稿、「(語り掛ける)パブリックスピーチ」とそれを行う場合の台本など、具体的な方法のことである。

 この5つの要点は、リーダー的な立場にいる人は、温度差こそあれ心得ているものである。しかしこれを本当の意味で理解し、武器として使いこなす者だけが、勝利を掴むことができる。反対にそれぞれの理解度が浅かったり、関連性が理解できていないのであれば、勝利を収めることはできない。

 さらに、次の7つの比較軸に照らして、同じ立場や目的で、ライバルに勝ち、より多くの人の支持を得るために、方針を決定する。

一、ライバルに比べて、リーダーとして結果を残しているのか。

二、ライバルに比べて、優秀なパートナーがいるのか。

三、ライバルに比べて、天の時と地の利を得ているのか。

四、ライバルに比べて、実績を上げるためのノウハウを確立し、かつ実行できているのか。

五、ライバルに比べて、自分のしていることが魅力的であるのか、発信力に優っているのか。

六、ライバルに比べて、自分自身や協力してくれる人の実務能力は高いのか。

七、ライバルに比べて、勝負感を持って物事に取り組み、自らに高いハードルを課しているのか。

 この7つの比較軸を比較検討した上で、スピーチの成否の見通しをつけなければならない。

 スピーチを行う人が、先に述べた5つの要点と7つの比較軸を用いるならば、必ずスピーチに成功するであろう。反対に用いないのであれば、スピーチに失敗することになるであろう。5つの要点と7つの比較軸という原則を理解した後は、聴衆の状況に基づいて効果的なフレーズを使うことが求められる。

 スピーチとは「新鮮な切り口の言葉」の異名である。

 そのためにあえて美辞麗句ではなく、地に足のついた言葉を用い、オーバーアクションな言葉を用いるのではなく、一歩引いた表現も駆使し、手垢にまみれた常套句を避けながら、ウイットというスパイスを効かせたフレーズを用い、聴衆が過度に情緒的な言葉を求めているときは肩透かしを食らわせ、漫然と話を聞いている人々には、キレのあるフレーズを用いて目を覚まさせ、鵜の目鷹の目でこちらの揚げ足取りを伺っている聞き手には、ガードを固めて失言のリスクをつぶし、こちらの批判が逆にブーメランとして返ってくるリスクがある時には、あえて言及を避け、ライバルが感情的になっている時には、挑発して火に油を注ぎ、逆に謙虚な姿勢を示しているときには、巧みにお世辞を使って慢心させ、安心している時には痛いところを突いて疲労感を煽り、ライバル同士が団結している時には、言葉の石つぶてを投げて、分裂させる。

 スピーチによって、「共感を得る」ことが目的の場合もあれば、「攻める」ことが必要な場合もあるだろうが、いずれにあっても、シンプルな中に新鮮な印象を与えることが必要になる。これがスピーチライターのいうところの効果的なフレーズであって、取材を行う前には伝えることのできないものである。

 スピーチを行う前に成功する見通しがつくのは、5つの要点と7つの比較軸に基づいて考えた結果、勝ち目が多いということである。逆に失敗する予測が成り立つのは、5つの要点と7つの比較軸に基づいて、成功する可能性が少ないからである。

 条件の違いにより、スピーチの成否が決まるというのは当然のことである。

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あなたが作成したスピーチ原稿を無料で診断【結婚式主賓】

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「スピーチライターの職務領域」に関する、不見識かつ偏った主張を斬る!

スピーチライターの近藤圭太です。

詳細は以下 Twitter の引用を見ていただければと思うが、著名なスピーチライターとして知られるある方が「本当のスピーチライターは原稿を書かない」的な主張を各種のメディアで繰り返している。

現段階では実名を書くことは差し控えるが、今後余りにも目に余る場合には具体的な事実関係に基づく反論を行わせていただくこともありうる。

「受け手の立場に立ってメッセージを発信する」このことはスピーチライターの鉄則である。

 

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安倍総理のスピーチ(HeForSheレセプション 2016.09.20)における現役スピーチライターの一考察

スピーチライターの近藤圭太です。

先日、(H28.9.20 現地時間)アメリカで行われた「HeForSheレセプション」での安倍総理のスピーチが、話題になっている。

「文章表現として、あまりにも稚拙」

「スピーチライターが書いているとしたら、あまりにもお粗末」

といった声がTwitter上などで上がっているようであるが、仮に現役のスピーチライターである近藤圭太が修正するとすれば、どのような表現になるか、一部をご披露するとしよう^^

原文テキスト並びに動画は【こちら】

念のため、安倍総理、首相官邸、管官房長官の各Twitterを通して、お伝えしておいた。

「攻撃は最大の防御」

スピーチライターに対するネガティブなコメントには、一つ一つ丁寧に「反論」することが肝要かと存ずる(笑)

 

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